私が、「東京都の檜原村に住んでいます」と人に話すと「あぁ、知ってますよ」と言って、ある場所の名前を出してくる。そして「行ったことがある」という人も多い場所。
それは檜原村役場の中にある喫茶店「カフェせせらぎ」です。
店内は名前の通り、窓際の席からは秋川の清流と緑の景観を楽しむことができ、檜原村の天然水で入れた美味しいコーヒーが飲める喫茶店として、コーヒー好きに親しまれるお店。また、地元の旬な特産品が集まるお店だから人気なのもうなずける。
でも実はそれ以外のお目当てがあって店に行く人も多く、私もそのうちの1人。
それは、檜原村出身の幡野庄一さん、「カフェせせらぎ」のマスターです。
ゼロからスタートした凄腕マスターの言葉
銀座をはじめ東京の一等地で35年、「みゆき館」という有名コーヒーチェーン店を営んできたマスターが、檜原村の「カフェせせらぎ」をやっていると聞いたら驚く人もいるだろう。
実家はもともと呉服屋で、4代目だというマスター。30代で奮起して脱サラし、大手町ビルの一角から始めた喫茶店はあっという間に繁盛店に。多い時には15店舗にもなったというから、凄腕のマスターなのだ。
(銀座デビューがだいぶ遅かった私がはじめて1人で入った喫茶店がその「銀座みゆき館」だったいう話は別の機会にするとして・・)
マスター(以下、マ)「元気にやってる?最近はどう?」
土井(以下、土)「マスターの顔を見ると元気になります。今日はマスターに会いに来ました。」
マ「そう言ってくれると嬉しいよ。」
いつも笑顔で声を掛けてくれるマスター、御年82歳。
自宅からお店までは30秒の道のりなのに、パリッとしたシャツにカラージャケット、シャツの首元にスカーフをのぞかせたトラッドスタイルで出勤する。いつだっておしゃれなのだ。「着ていくところがないから来ているだけだよ。銀座の時から同じなんだよ。」と気取らないのがマスター流。その日は村のキャラクターが入ったポロシャツで、好きだというピンク色を着て仕事をしていた。背筋がきちんと伸びていて、若々しくはつらつとしているのは、趣味のゴルフが秘訣のようだ。
土「マスターの気分転換と元気の秘訣はゴルフなんですね!」
マ「そうだねぇ。下手とか上手いとか関係なく、行ってその場所や雰囲気も楽しめるから楽しんだよ。」
土「ゴルフってなかなか難しいですよね・・」
マ「力むから難しくなっちゃうけど、力を抜いてスコアとか関係なく、楽しんじゃえばいいんだよ。遊園地とおんなじ。1日ゆっくり楽しめるからね。なんでもそうだよ。」
ゼロからひとつひとつ積み上げてきた人の言葉は、どこを切り取っても勉強になる。
マスターの語る言葉は人生にも通じるような、心に響く名言が多いんです。
とにかく人、人がすべて
私が訪れた日も、役場には朝からひっきりなしに人が来る。そして、お店の前を通り掛かるほとんどの人をマスターは知っていて、笑顔で手を上げ、「元気でやってるか?」「久しぶり!」と声を掛ける。今度は逆に向こうから「マスター!」と手を振る人もいる。その人達はいつも付き合いのある業者さんもいれば、観光客、村の人や役場の人など様々。
土「せせらぎに来る人は、マスターに会いに来るって人が多いんじゃないですか?」
マ「そんなことないよぉ。」
マスターは謙遜しているけど、きっと人はこの笑顔に会いにくるのだろうなぁ。
マ「何十年もずっとお店をやっていて思うけど、どんな時もやっぱり人が1番大事なんだよ。働くのも来てくれるお客さんも、人だから。人がすべてなんだよ。」
人を大事にするマスターだから人にも愛されていて、良い循環をしているんだなぁ。
「カフェせせらぎ」の代名詞となる窓際の特等席で、笑顔の写真をパチリと1枚。
人を思いながら入れる人のコーヒーは今日も美味しい!