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標高1000mの山岳公園へ。自然を守り、伝える人と歩く。

ライター:檜原村地域おこし協力隊(土井智子)

檜原村の標高1000mにある東京都檜原都民の森は、秩父多摩甲斐国立公園内の山岳公園。三頭山の麓にあり、登山をする人にも知られている。山頂付近にはブナの原生林があり、東京都に残るブナ林を目的に来る人も多い。この土地一帯はもともと、江戸時代は天領地と呼ばれた幕府直轄領地だった。そのため、禁伐地とされ、そのお陰で今も尚、昔からの山の景色が守られている。その自然豊かな檜原都民の森の管理事務所には、自然をこよなく愛する人達がいる。

今回、ご紹介するのはその1人、松山龍太(りょうた)さん。檜原都民の森に生息する虫、動物、鳥、植物、樹木、様々なことを知っているので、取材の日も、来園者の方や常連登山客が松山さんを訪ねて来ていた。小さな子どもからご年配の方まで、老若男女に人気なのだ。今日はそんな人気者の松山さんに檜原都民の森を案内して頂きながらお話を伺った。

自然に耳を傾け、アンテナを張っている人

檜原都民の森には、三頭大滝まで檜のチップを敷き詰めた「大滝の路」という散策道があり、森林浴のできる森林セラピーロードに認定されている。子どもや車いすの方でも楽しんで散策できるようになっているので、四季を通して人気のスポットになっている。(*1)

話しながら歩いていると、松山さんが「これ、みてください!」と突然地面を指した。

土井(以下、土)「え?ウッドチップですが、、何ですか?」

(↑後日、虫こぶの写真を松山さんに頂きました♪)

松山さん(以下、松)「これです。これはマタタビの実です。この中にアブラムシの仲間が入ると、もっとボコボコとした形になるんです。」

土「え!虫!なんで虫が入るんですか?」

松「マタタビの実が体を覆って保護してくれるため、その性質を利用しようと虫が中に入って生き延びるんです。虫こぶを焼酎につけたりしている人もいますね。このマタタビの虫こぶだけでも本が一冊あるくらい、研究されているんですよ。」

土「へぇ!それはすごいですね。そんな本まであるんですね。奥が深いなぁ。」

松「そうなんです。面白いですよね。・・・・あ、土井さん、みてください!ここにもぐらの穴があります。もぐらは、朝方に活動するので、めったに姿を見ることができないんですよ。」

松山さんと歩いていると、滝までの片道20分程度の道も、ものすごい発見と情報であふれている。「あ!今聞こえるこの鳴き声はオオルリですね。この時期に鳴くのは珍しいですよ。おそらく、あの木の上ですね」と私にはどこから聞こえているのかまったくわからなかったが、松山さんにはどの木の上か、察しがついているようだった。私の質問も聞きながら、鳥のさえずりを聞き分け、地面のもぐらの存在まで感じる。管理事務所の森川所長が「松山くんは、いつも、空か地面を見ている人」と言っていた意味がよくわかる。いつも自然に耳を傾け、アンテナを張っているのだ。

「天気の良い日はここからの眺めが綺麗ですね」と松山さんもおすすめのスポットから景色を楽しんでみる。当日は晴天で、セラピーロードからは山々が連なる景色が見える。ベンチで一休みしながら、森を抜ける風を感じることができる場所だ。

そして、ゆっくりと散策しながら三頭大滝に到着。落差30mの滝を吊り橋の上から眺める。緑の季節や紅葉の季節も見頃だが、真冬の凍った滝も圧巻だという。

いろんな角度から面白さを伝える

檜原都民の森には、管理事務所のある森林館に展示室がある。この森に生息する動物、鳥、昆虫、地層、様々なものと出会える。管理事務所にいる職員に聞けば、鳥の鳴き声や動物の生態を教えてもらえる。

どこからか、松山さんがひょいっと様々な動物の毛皮を取り出して見せてくれた。

松「どうぞ触ってみてください!」

土「イノシシの毛ってこんなに硬いんですね、ごわごわしていますね。こっちはたぬきですか?フワフワしてますね。」

松「触ってみると、色々な発見がありますよね。とくに子ども達は触ってみたいっていう気持ちがあったりしますから。大人でもそうですけどね。ここの展示は博物館ほどの数はありませんが、様々な切り口からお伝えして、面白さが伝わればいいなぁと思っています。」

土「さすが、少年の気持ちを忘れていない松山さん(笑)。松山さんって、昔から生き物や植物が好きだったんですか?小さい頃どんなお子さんでした?」

松「幼少期はいつも虫や動物、草に夢中でしたね。学校からの帰り道は30分程の道のりを、1時間50分くらい掛かってました。ポケットはいつもダンゴ虫でいっぱいでしたね(笑)。洗濯する母がいつも大変だったと思います。」

土「やっぱり!想像通りでした(笑)。」

未来に繋ぐために

今もそんな“松山少年”は健在だ。趣味は昔から小動物の標本づくりで、今もずっと作り続けているそう。動物の歯を見ればその摩耗具合でその動物の年齢がわかるという。また、何を食べているかなど、動物から得られる情報をすべて記録している。山に仕掛けておいたカメラのデータを休日の度にチェックしに行き、いつ、なんの動物が来たのかなど、すべてを記録しているというから驚きだ。その記録は膨大だが、いつでも取り出せるようにしてあるという。

土井「その記録や標本って、今後何かに使うとかあるんですか?」

松山「今すぐにどうこうとかは無いんです。ただデータとして取っておくんですね。標本もそうですけど、今はわからないことも、100年後、200年後の人には、解析できるかもしれない。そのときのための資料として、取っておくんです。」

土井「未来の研究者に繋いでいくためなんですね!」

松山「そうですね。そのためにも虫や鳥、生き物や植物、そういったものに興味のある子ども達が少しでも増えてくれたらうれしいですね」

今は解明されないことも、未来の人はわかるかもしれないというその期待とワクワクをこめて、資料を地道に残し、未来に繋いでいる人なのだ。

ちょうど散策の帰り道、虫かごと虫網を持った親子に遭遇した時、松山さんはその親子に、虫を採取できない旨を説明していた。

「お子さんには理解してもらうのが難しいところですが、手つかずの自然を残すためには仕方ないことなんです。」

恥ずかしながら、私も公園に対する認識が違っていた。虫取りをしたりブランコで遊んだりした住宅街の公園とは違うのだ。

檜原都民の森は今でこそ、人が立ち入ることが許され、自然を観察できる場所だが、本来は自然そのままの状態を残すための場所。だから、この公園内の植物、木、鳥や動物、そして虫までも、あらゆるものの採取や持ち出しが禁じられている。

私達はどこか、自分達人間を中心として考えてしまうところがあるが、本来は昔からのそのままの自然があることが宝であり、尊い存在なのだ。

その宝を守り、伝え、保護していくことがこの公園の活動であり、松山さんもその活動をしている。

「この太古からの自然を、未来まで残していくことがこの公園の目標なんですよ」と松山さん。いつもの穏やかな笑顔の奥に、自然に対する畏敬の念を感じた。

 

東京都檜原都民の森 公式ホームページ
https://www.hinohara-mori.jp/

*1 セラピーロードの散策に車いすが必要な方には、管理事務所にて電動車いすの貸し出しを行っています。

 

ライター:檜原村地域おこし協力隊・土井智子 2019年に千葉より檜原村に夫婦で移住し、地域おこし協力隊として村内で活動している。 自然豊かな檜原村で古民家暮らしを満喫し、日々の暮らしを発信中。 https://www.instagram.com/tocoxxhinohara/

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